食育優良法人(食育実践優良法人)認定制度の開始により、企業における「食」を軸とした健康施策への関心が高まっています。一方で、多くの企業担当者が感じているのは、「理念や方向性は分かるが、具体的にどのような取り組みを行えばよいのかが分かりにくい」という点です。
特に「大人の食育」は、学校教育のように知識を教え込むものではありません。働く世代が、自身の生活や価値観に照らしながら食を見直し、主体的に選択できるようになることが目的です。そのため、座学中心の研修だけでは、行動の変化につながりにくいという課題もあります。
そこで本記事では、野菜活用を軸に、企業が取り入れやすい“大人の食育”の実践例(事例パターン)をまとめて整理します。これから食育優良法人を目指す企業が、自社に合った形を考えるための参考事例集としてご活用ください。
食育優良法人認定に向けて企業が取り組みやすい「大人の食育」実践例一覧(野菜活用編)
事例① 社内イベントで旬の野菜のマルシェを行う
企業の食育実践として増えているのが、旬の野菜をテーマにした社内イベントです。月に1回など開催日を決めて、オフィス内にマルシェを設置すれば、従業員が喜ぶ福利厚生にもできます。季節の野菜を実際に見て、選んで、持ち帰れる場を設けることで、社員が自然に野菜に触れる機会が生まれます。
イベントとしても楽しめるので、社員同士の会話も生まれやすくなります。旬や簡単な食べ方を紹介するPOPを添えることで、知識提供というより「気づき」のきっかけとなり、結果として食生活の見直しにつながります。

事例② 従業員宅に野菜が届く仕組みを取り入れる
職場だけで完結させず、家庭の食卓までつなげる取り組みも有効です。従業員宅に旬の野菜が届く仕組みを用意することで、社員本人だけでなく家族も含めた食生活への意識が高まります。家族の食のリテラシーを上げることで、本人の食生活も変わっていくことでしょう。
届いた野菜をどう使うかを考える過程そのものが、大人の食育につながります。企業が管理するのではなく、社員が自分で選び、工夫できる余地を残すことが、行動の定着につながるポイントです。

事例③ 野菜をテーマにしたオンライン料理教室
忙しい社員が多い企業では、オンライン料理教室も取り入れやすい実践例です。短時間で旬の野菜を使った簡単な一品を紹介する形式であれば、昼休みや終業後でも参加しやすくなります。録画を視聴できるようにすれば、好きな時に実践や見返しも可能になります。また終業時間外の土日開催で、親子イベントとしても良いでしょう。
目的は調理スキルの向上ではなく、「野菜を一品足す」「使い切り方を知る」といった日常に活かせるヒントを得ることです。野菜の配布や宅配と組み合わせることで、実践へのハードルが下がります。

事例④ ワークショップ型で“気づき”を促す取り組み
一方向の講義ではなく、参加型のワークショップを通じて気づきを促す方法もあります。減塩の工夫などをテーマに企画したり、クイズや対話を交えて進めることで、社員が自分の食習慣を振り返る機会が生まれます。
ここで重要なのは、正解を教えることではなく、考える時間をつくることです。その結果として学びにつながる点が、大人の食育の特徴といえます。
事例⑤ 農業体験・収穫体験で食への意識を動かす
農業体験や収穫体験は、食材の背景を実感できる体験型の取り組みです。実際に畑に足を運び、野菜に触れることで、食べ物への見方が変わるきっかけになります。
健康行動を直接促すというよりも、「食の価値を知る」「野菜を意識する」といった意識の変化を生む点に意義があります。家族参加型にすることで、体験が日常生活へと波及しやすくなります。

事例⑥ 加工工場・市場見学で食の流れを知る
産地だけでなく、加工や流通の現場を知る取り組みも、大人の食育の一環として良いでしょう。大人の社会科見学のようなイメージで見学することで、野菜がどのように食卓へ届くのかを体感的に理解できます。
フードチェーン全体を知ることは、食材を選ぶ視点が広がり、日常の食行動にも影響を与えます。知識を学ぶというより、背景を知る体験そのものが価値となります。
事例⑦ 食の資格者によるレシピ配布・活用提案
管理栄養士や野菜ソムリエなど、食の資格者が関わるレシピ配布も実践例の一つです。栄養指導としてではなく、「忙しい日でも作りやすい」「野菜を無理なく取り入れられる」といった生活に寄り添った内容が中心となります。
届いた野菜やイベントと連動させることで、行動につながりやすくなり、結果として健康意識の向上が期待できます。
事例⑧ 朝食欠食へのアプローチとしての朝ごはん提供
働く世代を中心に課題となっている朝食欠食に対し、朝ごはんをテーマにした取り組みを行う企業もあります。野菜入りスープや軽食など、負担にならない形での提供が特徴です。自分で好きな野菜を選んでスムージーを作る体験提供でも良いですね。
「食べるべき」と指導するのではなく、食べやすい環境を用意することで、自然と行動が変わっていきます。

事例⑨ 従業員食堂を活用した食環境の整備
継続性の観点から欠かせないのが、日常の食環境そのものを整えることです。従業員食堂での野菜のおかずやサラダの充実、ヘルシーメニューの提供、選びやすい表示などは、無理なく続けやすい取り組みです。
制限や管理ではなく、選択しやすさを高めることで、社員が自分の判断で健康的な行動を選びやすくなります。
事例を横断して見えてくる共通点
これらの事例に共通するのは、『体験が意識を動かし、環境が行動を支える』という考え方です。
栄養セミナーだけでは大人の食育の定着化は難しい傾向があります。楽しい知識提供や体験、日常の環境と組み合わせることで、日々の行動につながりやすくなります。
「野菜活用」が企業の食育施策として続きやすい理由
食育施策の中でも、「野菜活用」を軸にした取り組みが多いです。これは、企業にとって導入・継続のハードルが比較的低く、野菜は日常的な食材であり健康にとって重要な存在だからでしょう。生活にも取り入れやすく、従業員の関心にもつながりやすいテーマというのも理由の1つですね。
また、野菜はその場で「選ぶ」「比べる」「調理する」「持ち帰る」といった多様な関わり方が可能です。そのため、マルシェ形式、ワークショップ、体験イベントなど、企業の状況や目的に応じて施策を柔軟に設計できます。
事例を俯瞰すると、野菜活用の取り組みは単独で完結させるのではなく、
・マルシェで知る
・体験で感じる
・レシピで持ち帰る
といったように、複数の接点を組み合わせているケースが多く見られます。この積み重ねが、従業員の健康意識や行動変容につながりやすい構造を生み出しています。
さらに、野菜をテーマにした食育は、健康経営や食育実践優良法人といった制度とも親和性が高く、社内外への説明もしやすい点もメリットです。「何をすればよいか分からない」と感じている企業にとって、野菜活用は最初の一歩として取り組みやすい食育施策だと言えるでしょう。
野菜活用事例に共通する設計の考え方
複数の事例を見ていくと、野菜活用の取り組みには共通した考え方が見えてきます。それは「野菜を食べさせる」のではなく、「野菜と関わる接点を増やす」という発想です。
野菜マルシェ、食べ比べ体験、料理体験、レシピ配布など、手法は異なっていても、
・参加の自由度が高い
・日常に持ち帰れる要素がある
・家族や自宅とつながる
といった点が重視されています。
この設計があることで、単発イベントに終わらず、企業の食育施策として意味を持つようになります。

まとめ|野菜活用から始める、大人の食育の企業実践
大人の食育とは、社員を教育することではなく、社員が自らの食生活に気づき、選び、行動できる状態をつくることです。野菜活用を軸とした実践例は、イベント、宅配、オンライン、体験、食環境整備など、さまざまな形で展開できます。
自社の文化や働き方に合った形から始めることが、大人の食育施策の現実的な一歩となるでしょう。
