2025年は、日本の食育施策において一つの節目となる年でした。これまで食育は、子どもや家庭を中心に語られることが多い分野でしたが、近年は働く世代を含む「大人の食育」が、健康づくりや社会課題の文脈で語られるようになってきています。
健康経営の広がり、生活習慣病予防への関心の高まり、そして国による制度・政策の整理。
こうした動きが重なった2025年は、企業にとっても「大人の食育」をどのように捉えるかを考えるきっかけとなった一年でした。本記事では、2025年に起きた政策・制度上の動きを整理しながら、企業を取り巻く環境の変化を俯瞰します。
企業が「大人の食育」に向き合い始めた背景
健康経営の浸透と食生活課題の顕在化
健康経営の考え方が広く浸透する中で、運動施策やメンタルヘルス対策に取り組む企業は増えてきました。一方で、日々の食生活への向き合い方は、依然として難しいテーマとされています。
健康日本21(第三次)では、野菜摂取量の不足、食塩摂取量の多さ、朝食欠食などが引き続き課題として示されています。これらの課題は高齢者や子どもに限らず、働き盛り世代にも共通するものです。忙しさや生活リズムの影響を受けやすい働く世代では、「食に関する知識はあっても、実際の行動に結びついていない」状況が見られます。
こうした背景から、食生活を個人の努力や自己管理だけに委ねるのではなく、職場という生活の一部を通じて、食について考えるきっかけをどうつくるかという視点が、企業の中でも意識され始めました。

食生活を「考える機会」をどうつくるか
2025年に向けた議論の中で見えてきたのは、「正しい食事を教える」こと以上に、食について立ち止まり、考える機会そのものをどう増やすかという課題です。
日常の中で忙しさに流されがちな食の選択に対し、あらためて向き合う時間や体験をどう確保するか。この問いが、企業にとっても無関係ではなくなってきました。
国としての動きが明確に示された「大人の食育」(2025年)
令和6年食育白書における提言
2025年6月10日に公表された令和6年食育白書では、「消費者の行動変容を促す大人の食育」が明確に位置づけられました。ここで重視されているのは、知識の習得だけでなく、主体的に食を選び、行動につなげる力(食のリテラシー)を育てることです。
特に働く世代については、生活環境や職場環境の影響を受けやすいことが指摘されており、食育を家庭内だけで完結させるのではなく、社会全体で支える視点が求められていることが読み取れます。
官民連携食育プラットフォームの発足
こうした流れを受け、2025年6月27日には、官民連携食育プラットフォームが発足しました。
このプラットフォームは、行政・企業・団体が連携しながら食育を推進していくための枠組みであり、「大人の食育」を官民一体で進めていく姿勢が示された出来事と言えます。

制度として始まった「食育実践優良法人顕彰制度」
制度発表と申請開始
2025年度から、企業による食育の取り組みを対象とした「食育実践優良法人(顕彰制度)」の申請受付が開始されることが発表されました。申請受付の開始は2025年であり、実際の顕彰結果の公表は2026年春を予定しています。
この時点では、評価基準や認定企業が確定しているわけではありません。しかし、企業の食育の取り組みを社会的に評価しようとする制度が正式に立ち上がったこと自体が、これまでにない動きでした。
制度が示した一つの方向性
制度資料から読み取れるのは、食育を単なる啓発活動ではなく、継続性や体験性を含めて捉えようとする姿勢です。
これは、食育実践ガイドブックで示されている考え方とも重なりますが、あくまで2025年は「考え方や方向性が示された段階」であり、企業側がこれから模索していくフェーズにあります。
2025年に見え始めた企業側の動き
「今後を見据えて考え始める」企業の存在
2025年時点で、すべての企業が具体的な食育施策を始めているわけではありません。
一方で、先進的な企業の中には、健康経営や福利厚生の文脈の中で、「食」をどのように位置づけるべきかを中長期的な視点で考え始めているケースが見られます。

それは、すぐに成果を求めるためではなく、今後制度や社会的評価の対象になり得るテーマとして、早い段階から理解を深めておこうという姿勢とも言えるでしょう。
職場を通じた「食との接点」への関心
働く時間の多くを過ごす職場は、食生活と無関係ではありません。
食に触れる体験や、食について話題にする機会をどのようにつくるか。こうした視点が、2025年以降の大人の食育を考えるうえで、徐々に注目され始めています。
2025年に浮き彫りになった「大人の食育」の論点
2025年の食育関連施策や議論を振り返ると、「大人の食育」に関していくつかの共通した論点が浮かび上がってきます。それは単に栄養知識を伝えるかどうかではなく、「どのように社会人の生活の中に食育を組み込むか」という実装フェーズの課題です。
健康日本21(第三次)や令和6年食育白書では、野菜摂取不足、朝食欠食、塩分過多といった食生活課題が繰り返し指摘されていますが、2025年時点でもこれらの数値が大きく改善したとは言い切れません。
つまり課題そのものよりも、「改善につながる取り組みが十分に広がっていないこと」が改めて明確になった一年だったと言えます。
「知っている」と「できている」の間にあるギャップ
多くの企業担当者や従業員は、「野菜はもっと食べた方がいい」「朝食は重要」「バランスの良い食事が大切」といった知識自体は、すでに持っています。
しかし2025年の議論を通じて見えてきたのは、知識があっても行動が変わらない層が非常に多いという現実です。このギャップは、個人の意識や努力だけで埋めることが難しく、生活環境・働く環境の影響が大きいとされています。
そのため、国の施策やガイドラインでも、啓発一辺倒ではなく「体験」「参加」「きっかけづくり」といった言葉が多く使われるようになっています。2025年はまさに、この考え方が政策レベルでも共有され始めた転換点だったと言えるでしょう。
2025年の動向から見えるこれからの企業アクション
2025年の食育動向を整理すると、今後の企業の動きとして次のような方向性が読み取れます。
一つは、「社員教育」という言葉を前面に出すのではなく、社員が自然に関われる仕組みをどう作るかという視点です。もう一つは、単発イベントではなく、年間を通じた継続的な関わりをどう設計するかという点です。これらはすぐに大きな成果を求める取り組みではありませんが、健康経営や人的資本経営の流れの中で、今後確実に問われていくテーマでもあります。
2025年は、大人の食育に関する制度や提言が出そろい、企業にとって「無関係ではいられないテーマ」として認識され始めた年でした。一方で、何をどこまでやるべきかについては、まだ模索段階にあります。
だからこそ今後は、
・自社の課題に合った関わり方
・従業員に無理のない導入方法
・続けられる仕組み
といった「実践の質」がより重要になっていきます。
2025年の動向を振り返ることは、次の一歩を考えるための土台づくりでもあります。
まとめ|2025年は“大人の食育”を考え始める年だった
2025年は、「大人の食育」が政策や制度の中で明確に位置づけられ、社会課題として動き始めた年でした。
すぐに何かを始めなければならない段階ではありませんが、すでに先進的な企業は、この流れをどう受け止めるかを考え始めています。
健康経営や福利厚生の延長線上で、食生活をどう捉えるのか。
御社にとって、「大人の食育」はどのようなテーマになり得るのか。
2025年は、その問いを持つための重要な一年だったと言えるでしょう。
