「食育」と聞くと子ども向けの教育を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。学校給食や家庭教育の中で「栄養バランスを学ぶ」という印象が強いかもしれません。しかし近年は、社会人や高齢者を含めた「大人の食育」が注目を集めています。

農林水産省は「食育は生きる上での基本であり、知育・徳育・体育の基盤」と定義し、大人の食育を国家的な施策として推進しています。つまり大人自身が「何を、どのように食べるか」を考え、主体的に選択する力を育むことが、健康寿命の延伸や生活の質の向上につながるのです。
本記事では、農林水産省が推進する大人の食育の背景や目的、そして企業や個人が実際にどのように取り組めるかを解説します。
大人の食育とは?その基本的な考え方
大人の食育とは、社会人が食に関する正しい知識と判断力を身につけ、日々の食生活で主体的に選択できる力を育てることです。
- 朝食を欠かさず食べる
- 野菜を意識して摂る
- 塩分や脂質の過剰摂取を避ける
- バランスの取れた献立を選ぶ
子どもと違い、大人は「健康診断の結果」「仕事の生産性」「家庭での役割」など生活の中で食の影響を強く受けます。そのため、大人の食育は単なる知識教育にとどまらず、行動変容やライフスタイル改善に直結する取り組みといえます。
農林水産省が大人の食育を推進する理由
なぜ今、大人の食育が国を挙げて推進されているのでしょうか?その背景には日本社会が抱えるいくつかの課題があります。
1. 健康寿命の延伸
日本は世界でも有数の長寿国ですが、健康に生活できる「健康寿命」との差が大きいことが問題です。生活習慣病やフレイル(加齢による心身の衰え)がその要因とされ、食生活の改善が解決策の一つとして位置づけられています。
2. 生活習慣病の予防
肥満や糖尿病、高血圧といった生活習慣病は、働く世代に広く見られます。食育を通じて日々の食習慣を見直すことが、医療費の削減や労働生産性の向上につながります。
3. 食の安全・安心への対応
情報が氾濫する現代では、食品表示や栄養情報を正しく理解する「食のリテラシー」が求められます。大人の食育は、こうした情報を主体的に活用できる力を養うことも目的としています。
4. 社会・地域とのつながり
農業体験や地域の食文化に触れることで、社会的なつながりや地域活性化にも貢献できます。食育は単なる個人の健康問題にとどまらず、社会的な課題解決にも寄与するのです。
参考:農林水産省 食育の推進
大人の食育と健康経営の関係

大人の食育は、企業が推進する健康経営とも深く関わっています。
- 社員の食生活改善=生産性向上
栄養バランスの良い食事は集中力やパフォーマンスを高め、欠勤やプレゼンティーズム(不調を抱えながら出社する状態)の減少につながります。 - 福利厚生の一環としての食育
オフィスでの野菜マルシェや健康ランチの提供、食育セミナーの開催は、社員の健康を守ると同時に職場の一体感を高めます。 - 採用・ブランディング効果
「社員の健康を大切にする会社」という姿勢は、求職者にとって魅力的であり、企業の社会的評価やブランド力向上にも直結します。
また、農林水産省は大人の食育が推進されています。令和6年度の「食育白書」では、企業においての“大人の食育”の事例として「食育マルシェ」が取り上げられていたり、大人の食育への取り組みの重要性が示されています。2025年には、「健康経営優良法人認定」と連動する形で、企業の大人の食育を評価する「食育実践優良法人」認定(2025年8月受付開始)が始まり、実践の後押しが強まっています。
参考:農林水産省 「令和6年度食育白書」
参考:農林水産省「食育実践優良法人顕彰制度」についてのプレスリリース
職場で取り組む“大人の食育”の実践例
大人の食育は、個人の努力だけでは限界があります。働く世代は1日の大半を職場で過ごすため、会社が環境を整えることが健康づくりに直結します。
- 社内での食の知識の提供:食に関する知識を楽しく知れる機会やきっかけを作る
- 美味しい新鮮野菜の補助:オフィス野菜マルシェや自宅への野菜配送で、手軽に野菜摂取の機会をつくる
- 季節の食育イベント/ワークショップ:旬食材の試食やミニ講座で楽しみながら食リテラシーを高める
- 社員食堂・弁当の設計:主食・主菜・副菜のバランスや食塩・脂質量を表示、ヘルシーメニューの提供
- 可視化とPDCA:参加率・満足度アンケート・健康指標を定点観測し、施策を継続改善する
特に「強制」ではなく「楽しみながら」というのが大切と言われており、野菜が好きな人に野菜を提供するだけではなく、いかに無関心層に興味を持ってもらうか?そのきっかけや機会をつくるかことが重要と考えられています。

まとめ
「大人の食育」は、健康づくりの基本であり、知育・徳育・体育の基盤となる取り組みです。農林水産省が推進する背景には、健康寿命の延伸、生活習慣病予防、食のリテラシー向上といった社会課題があります。
企業にとっては健康経営や福利厚生、採用ブランディングに直結し、個人にとっては日々の食生活改善が未来の健康を守る手段になります。
今後、健康経営や食育優良法人制度と結びつくことで、「大人の食育」は社会全体で広がる重要テーマになっていくでしょう。